朝自慢

北朝鮮のアイドルと海産物について

至極漠然としたイメージなんだけど、夕方の日差しを浴びながらまどろむような感覚。

それを濾したような酩酊の中で眠りこけることが、多分人間が得られる快楽の中でもトップのものなんじゃないかなって、急に思ったりする。

この快楽は得難いもので、僕達が酒にのめり込む理由も、おおよそこの快楽を得たいところにあるんじゃないかと推察していたりする。

いや、もしかしたら快楽というよりも、安心感といったほうが近いかもしれない。

白熱灯のぬくもりを浴びながら、木の手触りに沈み、臥す。居酒屋は僕達が眠りこけるための装置のほとんどを揃えている。

あとでそのぬくもりが、単に体にかけられた負荷とそこからくる火照りでしかなかったと知ることがあっても、僕達は繰り返す。

嘘のぬくもりが、はやる僕達の心を安らげてくれるのだから。

 

お酒の功罪というものがあって、僕は功の部分ばかりを覚えてしまっているが、多分罪のほうが占める割合として大きいんじゃないかと思っている。

 

まず酒は高い。間違いない。

手間はかかるし、税金だってかかる。ジュースのようにガバガバ飲んではいけない。

次に臭い。酒飲みの息は臭い。

男とか女とかは関係ない。なんかムワッとするアレがある。

んでもってこれが一番よくないんだけど、声が大きくなる。

単に声量がでかくなるというのもあるけど、心の中にあった些細な主張が、急に大きくなってボンボコ出てくる。抑えられない。

多分酒に酔って記憶が部分的に飛んだという経験を今年に入ってから四回くらいしていると思うんだけど、多分僕が覚えてないだけで現地にいた人達には多大な迷惑をかけていると思う。本当に申し訳ない。

他人が色々なことしゃべるのを聞いているのは気分がいい。なんせ楽しい。僕は自分がしゃべること以上に、人が喋っていることを聞くのが好きなんだと思う。でもしゃべる番が僕のところに回ってきた途端、ついつい長々と喋ってしまう。

多分僕は面白くて有意義なことなんかこれっぽっちも話せてなくて、ただの自己満足だったり自慢話だったりとかに終始していることだと思う。

悪いクセだとは思っているんだけどなんか治せないし、終わった後には罪悪感と悪めの空気だけが残る。絶対によくない。

 

なんで僕はあんなに喋ってしまうんだろうと考える。

理性が緩くなると本能が出やすくなるみたいに言われることがある。

じっと黙ってしまう人もいればベラベラしゃべる人もいる。

僕はどっちかっていうと後者なのだろうなと自覚している。

 

これは勝手な持論なのだけど、酔っ払っていっぱい喋る人は寂しがりなのだと思う。

自己顕示欲という便利な言葉があるけれど、僕の喋りたがりはそういうところに起因してないと思っている。

僕は一応ネガティブがちであるという自覚があるし、それがよくないことだとも散々指摘されてきたから頭ではわかっているはずで。潜在的にも自分すごいなんてあまり思っていないと思う。

じゃあなんで喋りたがるかっていったら、そりゃもう、自分のことを多くの人に知ってもらって、理解してもらって、あわよくば同情してもらいたいっていう浅はかな意識が、心のどこかにあるからなんじゃないだろうかと思う。

 

急に話を転換する。

僕は酔っ払った状態が冷めたあとの、急に暗いところに突き落とされるような感覚を味わったことが何度かある。

あまり人に話しても共感されないことだと思うんだけど、酔いが冷めて素面に戻りかけた時に、途端に今まで自分がベラベラと喋ってきたことが滑稽なものにしか思えなくなってきて、自分の矮小さに寒気がして、しまいには吐き気を催す。

なんか窒息しかけたときに似ているような感覚になる。プールの底で息を我慢しつづけて、そろそろ上がるかって思ったら頭上に板が敷かれて顔を出せない、といったような苦しみがある。

酒で特に一番怖いのはこの落差に出会うことだと思っている。僕が一身に受けた豊かなまどろみと温もりが根こそぎ奪われ、そして僕の精神を乗せてたゆたう木漏れ日の中のボートがいきなり滝から落とされて粉々になる。その瞬間、というよりも、その滝に落ちながら果てのないように見える滝壺を覗き込んでいるような絶望感が、本当にいきなりやってくる瞬間がある。

別にこれは酒を飲んでいなくてもやってくる。夜中の0時を回るか回らないかくらいのところで定時イベントのようにやってくる。僕は本当に怖い。夜中にダウナーになるなんてあれは半分嘘で、本当に放って置くといきなり「悪い奴ら」がやってきて、僕の世界を黒く塗りつぶしてしまう。

 

そういうとき、やっぱり僕は寂しくなる。

この気持ちを書く相手がいればと思う。

多分本当に誰かにつらつらとその恐怖を送っていたらただのメンヘラ男なんだと思う。

女でメンヘラならまだしも、男でメンヘラなんて救いようがない。

ただのキモい、面倒くさい男。

僕はそうなりたくないのでなんとか我慢している。

でもそれが、本当にポロッと表に出てしまって、ツイートとして流れたりする。

よくないことだと思う。

 

寂しいって、なんだろう。

浪人しているあいだはそんなことを考える精神的余裕もなかったけど、今になってふと「寂しい」と思う機会が増えた。

夜の怖い時間に隣にいて、朝までを一緒に明かしてくれる人が欲しい。

そう思うんだけど、そうやって誰かを束縛することはただのワガママだし、そんな人が現れて一旦幸せになってしまったら、その人がいなくなったあと、僕はまともに行きていける自信がない。

だいいち、巻き込んでしまった人をどうやったら幸せにしてあげられるのかが分からない。そんな相手がいたら僕はなんだってするだろうけど、そのことについて引かれるだろうし、幻滅もされると思う。

でも今、寂しくて苦しい。

 

酒はしんどいことを忘れさせてくれる。

凍えるような寂しさをいっとき忘れさせてくれる。

でもそのまじないが解けたとき、僕の精神は暗がりに沈められる。

それが怖くて酒を飲む。

でも最近は、飲むことも怖くなっている。

 

思考がまとまらなくなってきたのでこのへんで打ち切る。